レプリカ交換モンテカルロ法による探索

ここでは、レプリカ交換モンテカルロ法によって、回折データから原子座標を解析する方法について説明します。 具体的な計算手順はNelder-Mead法による最適化と同様です。

サンプルファイルの場所

サンプルファイルは sample/single_beam/exchange にあります。 フォルダには以下のファイルが格納されています。

  • bulk.txt

    bulk.exe の入力ファイル

  • experiment.txt , template.txt

    メインプログラムでの計算を進めるための参照ファイル

  • ref.txt

    計算が正しく実行されたか確認するためのファイル(本チュートリアルを行うことで得られる best_result.txt の回答)。

  • input.toml

    メインプログラムの入力ファイル

  • prepare.sh , do.sh

    本チュートリアルを一括計算するために準備されたスクリプト

以下、これらのファイルについて説明したあと、実際の計算結果を紹介します。

参照ファイルの説明

template.txt, experiment.txt については、Nelder-Mead法による最適化と同じものを使用します。

入力ファイルの説明

ここでは、メインプログラム用の入力ファイル input.toml について説明します。 input.toml の詳細については入力ファイルに記載されています。 以下は、サンプルファイルにある input.toml の内容です。

[base]
dimension = 2
output_dir = "output"

[algorithm]
name = "exchange"
label_list = ["z1", "z2"]
seed = 12345

[algorithm.param]
min_list = [3.0, 3.0]
max_list = [6.0, 6.0]
step_list = [1.0, 1.0]

[algorithm.exchange]
numsteps = 1000
numsteps_exchange = 20
Tmin = 0.005
Tmax = 0.05
Tlogspace = true

[solver]
name = "sim-trhepd-rheed"
run_scheme = "subprocess"

[solver.config]
cal_number = [1]

[solver.param]
string_list = ["value_01", "value_02" ]
degree_max = 7.0

[solver.reference]
path = "experiment.txt"
exp_list = [1]

[solver.post]
normalization = "TOTAL"

ここではこの入力ファイルを簡単に説明します。 詳細は入力ファイルのレファレンスを参照してください。

[base] セクションはメインプログラム全体のパラメータです。 dimension は最適化したい変数の個数で、今の場合は2つの変数の最適化を行うので、2 を指定します。 output_dir は出力先のディレクトリ名です。省略した場合はプログラムを実行したディレクトリになります。

[algorithm] セクションは用いる探索アルゴリズムを設定します。 交換モンテカルロ法を用いる場合には、 name"exchange" を指定します。 label_list は、value_0x (x=1,2) を出力する際につけるラベル名のリストです。 seed は擬似乱数生成器に与える種です。

[algorithm.param] サブセクションは、最適化したいパラメータの範囲などを指定します。 min_list は最小値、 max_list は最大値を示します。 step_list はモンテカルロ更新の際の変化幅(ガウス分布の偏差)です。

[algorithm.exchange] サブセクションは、交換モンテカルロ法のハイパーパラメータを指定します。

  • numstep はモンテカルロ更新の回数です。

  • numsteps_exchange で指定した回数のモンテカルロ更新の後に、温度交換を試みます。

  • Tmin, Tmax はそれぞれ温度の下限・上限です。

  • Tlogspacetrue の場合、温度を対数空間で等分割します

[solver] セクションではメインプログラムの内部で使用するソルバーを指定します。 Nelder-Mead法による最適化のチュートリアルを参照してください。

計算実行

最初にサンプルファイルが置いてあるフォルダへ移動します(以下、本ソフトウェアをダウンロードしたディレクトリ直下にいることを仮定します).

$ cd sample/single_beam/exchange

順問題の時と同様に、 bulk.exesurf.exe をコピーします。

$ cp ../../sim-trhepd-rheed/src/bulk.exe .
$ cp ../../sim-trhepd-rheed/src/surf.exe .

最初に bulk.exe を実行し、 bulkP.b を作成します。

$ ./bulk.exe

そのあとに、メインプログラムを実行します(計算時間は通常のPCで数秒程度で終わります)。

$ mpiexec -np 4 odatse-STR input.toml | tee log.txt

ここではプロセス数4のMPI並列を用いた計算を行っています。 (Open MPI を用いる場合で、使えるコア数よりも要求プロセス数の方が多い時には、 mpiexec コマンドに --oversubscribe オプションを追加してください。)

実行すると、 output ディレクトリ内に各ランクのフォルダが作成され、 各モンテカルロステップで評価したパラメータおよび目的関数の値を記した trial.txt ファイルと、 実際に採択されたパラメータを記した result.txt ファイルが作成されます。 ともに書式は同じで、最初の2列がステップ数とプロセス内のwalker 番号、次が温度、3列目が目的関数の値、4列目以降がパラメータです。

# step walker T fx x1 x2
0 0 0.004999999999999999 0.07830821484593968 3.682008067401509 3.9502750191292586
1 0 0.004999999999999999 0.07830821484593968 3.682008067401509 3.9502750191292586
2 0 0.004999999999999999 0.07830821484593968 3.682008067401509 3.9502750191292586
3 0 0.004999999999999999 0.06273922648753057 4.330900869594549 4.311333132184154

また、各作業フォルダの下にサブフォルダ LogXXXX_00000000 (XXXX がグリッドのid)が作成され、ロッキングカーブの情報などが記録されます。 (各プロセスにおけるモンテカルロステップ数がidとして割り振られます。)

各ランクフォルダにある result.txt には、各レプリカでサンプリングされたデータが記録されていますが、これを温度ごとのサンプルに整列しなおしたデータが output/result_T*.txt として出力されます。 * は温度のインデックスを表します。

最後に、 output/best_result.txt に、目的関数 (R-factor) が最小となったパラメータとそれを得たランク、モンテカルロステップの情報が書き込まれます。

nprocs = 4
rank = 1
step = 282
walker = 0
fx = 0.008414800224430936
z1 = 5.164773671165013
z2 = 4.226467514644945

なお、一括計算するスクリプトとして do.sh を用意しています。 do.sh では best_result.txtref.txt の差分も比較しています。 以下、説明は割愛しますが、その中身を掲載します。

#!/bin/sh

sh prepare.sh

./bulk.exe

time mpiexec --oversubscribe -np 4 odatse-STR input.toml

echo diff output/best_result.txt ref.txt
res=0
diff output/best_result.txt ref.txt || res=$?
if [ $res -eq 0 ]; then
  echo TEST PASS
  true
else
  echo TEST FAILED: best_result.txt and ref.txt differ
  false
fi

計算結果の可視化

output/result_T*.txt を図示することで、 R-factor の小さいパラメータがどこにあるかを推定することができます。 以下のコマンドを実行すると、 output/result_T1.txt のサンプル点をプロットした 2次元パラメータ空間の図 result.png が作成されます。

$ python3 plot_result_2d.py

作成された図を見ると、(5.25, 4.25) と (4.25, 5.25) 付近にサンプルが集中していることと、 R-factor の値が小さいことがわかります。

../_images/exchange.png

サンプルされたパラメータと R-factor 。横軸は value_01, 縦軸は value_02 を表す。

また、 [solver] セクションの generate_rocking_curve パラメータを true にすると、 RockingCurve_calculated.txt が各サブフォルダに格納されます。 これを用いることで、Nelder-Mead法による最適化での手順に従い、実験値との比較も行うことが可能です。